理想のムーミン像。
ムーミンと聞いて真っ先に思い浮かべる『ムーミン像』は人によって違うはず。
可愛らしいムーミングッズのムーミンを思い浮かべる人もいるだろうしアニメ版ムーミンを思い浮かべる人もいるでしょう。アニメ版は昭和版、平成版、令和版があり、世代によって
「これが私にとってのムーミンだ!」というのは変わってくるはず。
私自身は小説の挿絵として描かれたペン画のムーミンが一番好きです。
神秘的で、ちょっぴりおどろおどろしい雰囲気もあり、なおかつ可愛らしいところが最高!
小説の挿絵も描かれた年代によってムーミンの外見が少し違っています。
初期に描かれたムーミンは、ほっそりした顔立ちで私たちのよく知っている、ふっくらしたムーミンとはちょっと違います。時が経つにつれムーミンは、ふっくらした顔になっていきます。
これは原作者のトーベ・ヤンソンが原作の改訂や言語バージョンに伴いムーミンの描画や文章表現に変化を加えていったからのようです。
アニメ版は平成に作られたムーミンが個人的には一番しっくりきます。
令和に作られたアニメ『ムーミン谷のなかまたち』も当然見ましたが、あれは体が拒絶反応を示しました。最新技術で作られた美しいCGアニメですが、私の知っているムーミンとは根本的に何かが違います。
「こんなのムーミンじゃない!」
「こんなのムーミンじゃないよぅ!」
そう叫びながら全力疾走したい気分。
第一話は我慢して最後まで見ましたが、第二話の途中でギブアップ。
この作品が大好きな人もいるでしょうが私にはムリでした。
そんなわけで自分にとっての『理想のムーミン像』と合致しない作品は誰にとっても受け入れ難いものになるはず。『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』の評価も、その点が大きく関わってくると思います。
では実際にどんな感じのムーミンなのか見てみましょう。



個人的には、どストライクです。
私の好きな小説の挿絵とも平成版アニメとも違いますが、その二つをいい案配にミックスしたような雰囲気。水彩画のようなタッチも目に心地好く癒されます。
まるで美しい動く絵本。
この作風が気に入れば間違いなく楽しめます。
逆に、この画像を見て「こんなのムーミンじゃない!」という人は絶対楽しめません。











ご覧の通りビジュアル的にはとても素晴らしい作品ですが「ゲームとして面白いのか?」と問われると、
答えはノーです。
はっきり言って全然面白くありません。
もちろんこれは個人的な感想で、面白いと感じる方も当然いるはず。
ただ、ゲームとして目新しい要素が無いので、たくさんゲームをしてきた人ほど退屈に感じる傾向が強いと思います。私の場合、特に歩くことが苦痛でした。映像は魅力的ですが、同じような風景が続くフィールドをひたすら歩くことになるので、すぐに飽きます。さらに同じ場所を何度も行ったり来たりしなければならない為、本当に面倒くさい。操作するキャラがスナフキンだったから我慢できましたが、もしこれがスニフやヘムレンさんやトゥーティッキだったら確実に途中で心が折れました。
私は『ムーミン』の登場人物の中でスナフキンが一番好きです。

二番目に好きなのはムーミントロール。
三番目はミイ。
このゲームの目的はスナフキンが行方不明になったムーミントロールを捜し出し、救出するというもの。
そんな崇高な目的があるのなら「よっしゃ!やってやるぜ!」という気分にもなります。
断じて簡単に諦めるわけにはいきません。
プレイし続けていると、ムーミントロールのために頑張るスナフキンの姿に、だんだん胸が熱くなってきます。
スナフキン、なんていいやつなんだ!
スナフキンとムーミントロールは、やっぱり固い友情で結ばれているんだね!

画面の中で奮闘しているスナフキンを見ていると私も頑張って操作せねば!という気分になり、ますます途中で投げ出せなくなります。無事ムーミントロールを救出してエンディングを迎えた時はホッとしました。
ゲームとしてはそれほど面白くありませんが、そんなことはどうでもよくなるほど映像が素敵です。
映像だけでなく世界観も『ムーミン』そのもの。
大抵のゲームには暴力の要素がありますが『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』は、暴力によって物事を解決するシーンがありません。自由を愛するスナフキンが禁止事項ばかり書かれた公園の立て札にブチ切れ、立て札や柵を引き抜くという、やや過激な行動は見られましたが、ムーミンに登場するキャラクターは強い意志や感情を持っている者が多く、誰もが自分のスタイルを貫いて生きています。誰もが自分のスタイルを貫いていたら他者との衝突が生じますが、ムーミン谷の住人たちは意見の齟齬があっても互いに相手の個性を受け入れ、共生する道を選ぼうとします。
そこがムーミン谷の素晴らしさです。
このゲームでもそういったスタイルは、しっかり受け継がれています。
彼らは自分の信念を貫くために戦います。
しかしその戦いは暴力を伴う戦いではありません。
そもそもスナフキンは武器を所持していません。
彼が使うのは武器ではなく楽器。
ひとたびスナフキンが楽器を演奏すると、蜂も鳥も猪も大蛇も、その美しい音色に魅了され、スナフキンの手助けをするという展開です。原作者トーベ・ヤンソンの暴力否定の精神が、しっかり反映されているところがなにより素晴らしい。限りなくパーフェクトに近いムーミンのゲーム化と言えます。ただ、個人的にはゲームという形式にこだわらず純粋に『動く絵本』として発売してくれた方が楽しめたような気がします。絵本なのにキャラクターを操作することができて、時折ミニゲーム的なものを遊べるようなものが良かったです。
でも、この作品の開発スタッフは『デジタル絵本』ではなく、あくまでムーミンゲームの傑作を作りたかったのでしょうね。『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』をプレイしていると、そんな熱い想いが、ひしひしと伝わってきます。
「俺たちはムーミンのゲームを作りたいんじゃ~!!」
「ムーミンの傑作ゲームを作りたいんじゃ~!!」
そんな叫びが聞こえてくるようです。
実際、彼らはそれを成し遂げました。
改良の余地はありますが、『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』はムーミンゲームとして間違いなく一つの理想形だと思います。ムーミンの世界観を崩壊させることなく見事にムーミンのゲーム化に成功しています。不満なところもありますが、これはもう★5をつけるしかありません。
もちろん私は追加コンテンツの『恋に落ちたクロットユール』も購入しました。
『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』は春が舞台でしたが、追加コンテンツは秋を舞台にしたお話です。
本編と同じく、この追加コンテンツも歩くのが苦行でしたが、やはり映像の美しさに魅了されました。








クリア時間は本編が約5時間。追加コンテンツはその半分くらいです。
基本的には簡単なゲームですが歩くのが面倒なので、ある程度根気は必要です。
マップが分かりづらいので方向音痴の人は道に迷うかもしれません。
新しい追加コンテンツが発売されたらまた買ってしまうと思いますが、できることなら歩くことが苦にならない追加コンテンツを作ってほしいです。
最後にゲームをクリアするためのコツを二つだけ紹介します。


評価
↓こちらはニンテンドースイッチ版。
私がプレイしたのはPS5のダウンロード版です。
↑
こちらは小説版ムーミン。アニメ版とは全く違う魅力があります。ペン画の挿絵も素晴らしいです。