『SEKIRO (セキロ)』レビュー&感想。

sekiro
目次

腰が抜けるほど難しい

(このレビューは私がダイナマイト・キャットというニックネームで2019年3月29日アマゾンに投稿したものと同じ内容です)

ここまで難しいと、ゲームというより何かの修行をしているような気分になってくる。
忍耐力、反射神経、分析能力、そういったものを養うための修行。そう考えれば、この苦行にも納得がいく。
しかし私は修行をする為にゲームを購入したわけではない。
楽しさを求めてゲームを購入したのだ。
それなのに何だこれは……。
プレーしていると、どんどん気分が滅入ってくる。
全体的におどろおどろしい雰囲気が漂っており、登場人物の顔も怖い。
無精ひげを生やしたむさくるしいおっさんたちが寄ってたかって襲いかかってくる。
日本刀で斬りつけてきたり槍で突き刺してきたり火縄銃をぶっ放してきたり火矢を放ってきたり
大勢で取り囲んで滅多斬りにしてきたり……もう、やりたい放題だ。
殺されては蘇り、殺されては蘇る。悪夢のような無限ループ。
やられてばかりいるわけにはいかないので、こっちもおっさんたちを倒すことになるのだが、
おっさんたちの絶命時の表情が凄まじい。
苦悶と絶望、さらには何かこの世に訴えたいことがあるような顔をして死んでいく。
トマトジュースのような血を大量に撒き散らせながら。
殺して、殺されて、殺して、殺されて。
地獄絵図。
そんな表現がしっくりくる。
ゲームに登場するキャラクターはプレーヤーを含め、ほぼ全員、隙あらば誰かを殺そうとしている。
全員殺意の固まりだ。
ボスキャラに至っては殺意メーターが完全に振り切れてしまっていて、もうわけがわからない存在だ。
出会った瞬間、死を覚悟するしかない。
新しいボスが登場する度に絶望的な気分になる。
もう、新しいボスは出てこないでくれ。
そう思う。
やめたい。
つらい。
でも、なぜかやめられない。
刀と刀を激しく打ちつけあい、最後は『忍殺』でフィニッシュという一連の流れが、
すでに病み付きになっているのだ。
やめようと思っても次の日になると、また忍殺している自分がいる。
忍殺中毒だ。
最初から忍殺が好きだったわけではない。
やりはじめた頃は『忍殺システム』がどうもしっくりこなかった。
今までの剣戟アクションゲームは剣で敵の体を斬るというのが常識だった。
SEKIROの場合、こちらの攻撃はほぼ100%ガードされてしまう。
敵の体ではなく敵が持っている刀を狙って攻撃しているような気分になってくるほどだ。
なぜ刀を狙うのか?
体を斬らなければ意味がないじゃないか。
そもそもこれじゃあ爽快感が無い。
でも、何度も何度もプレーしていると刀と刀を激しく打ちつけあう攻防が無性に気持ち良くなってくる。
そしてSEKIROが、とても奥深く、よく練られた極上のアクションゲームだということが分かってくる。
これこそ本物の剣戟アクションゲームであり、今までやっていた剣戟アクションゲームはニセモノかも
しれない。
そんな気さえしてくる。
高難度という評判に恐れをなし、二の足を踏んでいる方も多いだろうが個人的な意見を言わせていただければ
クリアできるか、できないかは問題ではないと思う。
実際、私はこのゲームをクリアする自信がない。
本当に難しいのだ。
でも、たとえクリアできなくても私にとってSEKIROは、ずっと手元に置いておきたいゲームだ。
「チャンバラがやりたいな……」ふとそう思う瞬間が誰にでもある。
ないか?
少なくとも私にはある。
そんな時、SEKIROを持っていれば安心だ。ゲームを起動させればいつでも極上のチャンバラ体験ができる。
極端な話、まったく先のエリアに進めなかったとしても私はこのゲームを手放さず
チュートリアルの半兵衛と戦ったり、最初のエリアだけを何度も何度も繰り返しプレーしたりするだろう。
そうしたくなるほど見事な出来映えの剣戟アクションゲームなのだ。
クリアしていないけど大好きなゲームを私はいくつも持っている。
様々なジャンルの、そういった作品を常備している。
例えば格闘技系のゲームがやりたいと思ったらUFC2を取り出す。
このゲームもクリアしていない。トロフィー取得は8%だ。
大勢の格闘家を操作できるが私が操作するのは、ほぼブルース・リーだけだ。
遊ぶモードはノックアウトモードだけだ。
でも私はこのゲームを誰よりも楽しんでいるつもりだ。
一週間に一回、場合によっては何ヶ月かに一回しかやらない。
だがプレーしている間は最高に幸せだ。
「格闘技ゲームがやりたい」という欲求を、このUFC2は完璧に満たしてくれる。
トロフィーが8%しか取れなくても全然構わない。
「お散歩ゲームがやりたい」そう思った時はGTA5やRDR2の出番だ。
この二つもクリアしていない。
何をするでもなく街の中や草原をぶらぶらと歩く。
「空を自由に飛んでみたい」そう思った時はエースコンバット7だ。
この作品は雲の描写が素晴らしい。
フリーフライトモードを選び、何をするでもなくボンヤリ空を飛び続ける。
私と同じような楽しみ方ができる方ならSEKIROも十分楽しめると思う。
「そうだ、チャンバラやろう」ふとそう思った時SEKIROが手元にあれば安心だ。
映像に関しても申し分ない。
戦国時代の雰囲気が見事に再現されている。
一番感動したのは天守。
天守の外観、そして内部が素晴らしいクオリティーで描かれている。
櫓も美しい。
日本の名城の好いとこ取りをしたような城郭だ。
最高に格好いい天守の屋根を駆け抜け、敵の忍者達と熱いバトルを楽しむことができる。
たまらない。
敵を一掃して、ゆっくり城の縄張を見て歩くのも楽しい。
この天守には、わりと序盤に行けるので、頑張って鬼形部を倒し、ぜひここまでは来てほしい。
ここまで来れば値段分の元は十分取れるのではないだろうか。
コツコツ進めて現在は中盤に到達。
数々のスキルを取得したにもかかわらず鬼のような難易度は変わらない。
全クリしようと思うと失神しそうになる。
でもクリアしようと思わなければ大丈夫だ。凄く楽しい。
これからもマイペースで、ゆっくり進めていくつもりだ。
そしてあわよくば全クリしてやろうと思う。
剣戟アクションゲームが好きな人は酷評に惑わされず是非挑戦してほしい。
たとえクリアできなくても、プレーする価値は十分にある。

※2019年4月19日追記
トロフィーをコンプリートしたので総合評価を。
私は侍や忍者を題材にした和風ゲームが大好きで今までに数多くの和風剣戟アクションゲームをプレーしてきたが
(影の伝説、源平討魔伝、侍スピリッツ、ブシドーブレード、朧村正、剣豪、フォーオナー等々)
過去、現在を通してSEKIROが最も優れた和風剣戟アクションゲームだと思えた。
実に見事な出来映えで、本当に素晴らしいと思う。
だが、一つだけ看過できない問題点があった。
初見のボス戦が難しすぎるのだ。
周回プレーをしている現在は敵の行動パターンを理解しているので、むしろ簡単に感じてしまうほどだが、
それは厳しい修行を乗り越えた者だけが感じる錯覚で、初見のボス戦を思い返してみると、どう考えても異常な難度だった。
苦労に苦労を重ねてボスを倒すと、それなりの喜びや達成感は得られるが個人的には初見のボス戦は快感よりもストレスが上回った。
特に『怨嗟の鬼』と『平田屋敷の梟』。
こいつらと戦っている時、私は何度も発狂しそうになった。
初見時の討伐時間は、それぞれ2時間から3時間くらい。
それだけあれば映画が1本か2本鑑賞できる。
2時間から3時間の間、ひたすら一人の相手と戦わなくてはならない。
何十回も死亡し、その度に最初からやり直しだ。
これはもはや拷問だ。
操作ミスは一切許されない。わずかなミスが命取りになる。何時間も集中力を維持しなければならない。
人間が集中力を維持できる時間は限られている。限界に達すると当然ミスを連発する。
もちろん私も数え切れないほどのミスを犯した。
○ボタンを押したはずが、そこにボタンが無い。空振りだ。こんなことは普通の状態では考えられないが
自分の能力の限界に達しているので、そういう異常事態に見舞われる。
精神的に追い詰められイライラし、なぜか体のあちこちが痒くなってくる。
足や腕、髪を掻きむしっていると当然さらなるミスが起こる。
あともう少しという所でやられてしまう。
時計を見ると午前零時を過ぎていたりする。
明日も早起きしなければいけないのに私は一体何をしているのだろう?
もうやめたい。
しかし、今ここでやめたら、せっかく掴みかけたコツを忘れてしまいそうだ。
今までの二時間が無駄になってしまう。
焦れば焦るほどミスをする。
コントローラーをディスプレーに投げつけ、PS4本体を床に叩きつけたくなる。
よくもまぁ、ここまで人をイラつかせるゲームが作れるものだと感心してしまう。
人間の限界を突破し、何とかボスを倒して時計を見ると午前一時だったりする。
あまり嬉しくない。
人間の限界を突破しないとクリアできないゲームなんてキツすぎる。
これはもう娯楽ではない。
本物の修行だ。
星一個の評価をする人の気持もよくわかる。
ただ、私の場合、ザコキャラたちとのんびりチャンバラごっこをすることに喜びを見いだせたし、
二周目以降はボス戦も楽しめたので最終評価も五つ星だ。
おそらくフロムソフトウエアは次もこういう感じのゲームを発売するのだろう。
そういう会社なのだから、もう仕方がない。
人間の限界に挑戦したい人だけが買えばいい。
オリンピックみたいなものだ。
人間の限界に挑戦したい人だけ参加すればいいのだ。
もちろん参加した誰もが勝利者になれるわけではない。
オリンピック精神にのっとり全力を尽くして闘い、勝ち負けの結果にこだわってはいけない。
そんな気がする。

評価

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